プロジェクト

  1. TOP
  2. プロジェクト
  3. 【地域価値共創×グロースプランニング Vol.1】アート思考でソーシャルビジネスの未来を描く(後編)

【地域価値共創×グロースプランニング Vol.1】
アート思考でソーシャルビジネスの未来を描く(後編)

人形師/アーティスト・中村弘峰×株式会社上向き・白坂大作

罪悪感や欲望こそが行動の源泉?

中村:でもリアルなところで言うと、「地球環境のために自分が何かアクションしなきゃ」と思う人はまだまだ少ないですよね。

白坂:そうなんです。僕らのビジョンに共感して最初は買ってくれても、リピーターにはなかなかなってもらえなくて。ユニセフに募金するように「良いことした」という感覚だけでは継続しなくて、お客さんのベネフィットにきちんとハマらないといけない。その難しさはありますね。

塚本:広告表現やマーケティングの世界で、ブランド論を語るときによく言われるのが、感情的な価値の大切さです。環境負荷を減らすことは機能的な価値ではあるけど、それだけでは足りなくて、自分の欲望を満たしたいという感情的な価値を訴求できるとファンがついて、選んでもらえると。

中村:確かに。僕、痩せたいという気持ちは常にあるんですけど、なかなか続かなくて。「あなたは本当に自分に甘い」と妻によく言われるんですが(笑)、そういう人って実際は多いと思うんですよ。だから、「カロリーゼロのお酒」みたいに罪悪感を消してあげるもの。例えばポテチの代わりになる大豆商品とか、あったら嬉しいですね。要は、「いい事」アプローチの真逆、食べちゃダメってわかってるんだけど誘惑に負けちゃうものを、堂々と食べていいものに変える。人間にとっての報酬系を刺激するものに、ソイクルが入り込めると強いですよね。

白坂:面白いですね。結局ロジックだけでは人は動かなくて、エモーショナルなところにどれだけ響くかって大事ですよね。

中村:人はみんな「明日がもっと幸せになる」という気がするものに、お金を払うんでしょうね。発展途上国(市場が成熟していないという意味で)だとそれが物欲にいきがちで、環境に意識がいくのは社会が成熟している証でもありますよね。

白坂:僕らは、2030年までに420万人が参加するエコ・コミュニティを創ることを会社のビジョンに掲げています。これは社会運動の成功のラインといわれる、人口の3.5%(日本の場合420万人)から来た数字です。世界で一番になるとかではなく、あくまで社会を変えるための活動をしていきたい。そのために、オンラインだけではなくリアルな店舗を持つのも良いと思っています。ご飯を食べて、残したらコンポストに入れる体験ができるレストランとか。 そこでは洋服のリペアもできるとか。

塚本:世界観を五感で感じられるような場作りということですね。

白坂:物が売れれば売れるほど世の中が良くなっていく、食の世界のパタゴニアのようなブランドになっていきたいんですよね。「エコフレンドリーな生活って、結構いいよね」と体感してもらえるような場所ができると強いなと。

アートで広がる想像力の翼

中村:アートに話を戻すと、僕がなぜアートを見るかといえば、「俺が考えてもいなかったことを考えているヤツがいる!」という驚きを感じたくて。それが作品という、わかりやすい形になっているのがアートなので。目から鱗という体験をした時って、筋トレと一緒で脳の使ってない筋肉が刺激されて、モゾモゾっと動く感じがするんですよね。それがたまらない。

塚本:わかります。冒頭のバナナもそうですけど、「この人の考え方とか脳みそとか、一体どうなってるの?」っていう衝撃がありますね。

中村:大豆ミートに関しても、想像力を広げて言えば、そもそも牛鶏豚が他の動物より桁違いに数が多くて、それは人間が食べるために増やされているわけですよね。それに比べると、他の動物は全て絶滅危惧種とも言えて。食べられる生き物や、食べて美味しい動物だけを家畜化してきた人間の功罪というか行為自体に疑問を持つべきだし、想像力の翼を広げるところにアーティスト的思考の面白さがあると思います。

塚本:そういう意味では、白坂さんもアーティストですね。同じ想いの人を仲間にして、社会を変えていく活動をするアーティスト。

白坂:そうですかね?

中村:まさにそうで、アートって一個人の社会に対する問題提起がぎゅーっと凝縮されたものですから。環境問題への意識もこの先どんどん状況が変わっていくと思いますが、例えばソイクルのパッケージにしても白坂さんの思いが反映されている訳で、現時点での白坂さんの思いを真空パックみたいに保存しているものとして、アート作品と言えるのかもしれない。

白坂:いいですね。例えば最初に作ったソイクルのパッケージは、通販主体で、プラスティ ックを極力減らすためにチャックがついていなかったんです。でも最近は、スーパーに卸すためにチャックを追加しました。こんなパッケージの変遷も、その時々の考え方を示していることになりますね。

中村:アートって、その時代に対する問題提起を反映しているものなので歴史の記憶としてあとから振り返れるんですよ。文字だけじゃない感情も含めて、味わい深い保存容器にもなっているから、ソイクルのパッケージの変遷を残しておくことで、自分の想いの初心を振り返ることができるアート作品として機能するかもですね。額に入れて会社に飾りましょうよ(笑)。

アートも経営も、多様な社会の為にある

塚本:本日の対談、とても示唆に富んだものになったんじゃないかなと思います。無理やりまとめることではないですが、印象に残ったこととして、まずはおふたりとも自分の感情や、気持ちによって人と繋がることをとても大事にされているんだなと思いました。

中村:白坂さんがおっしゃった、「競合他社よりもうちの方が美味しいというプロモーションが嫌だった」という話、感動ポイントというか、感銘を受けました。とてもよかったですよね。アーティストの感性と近いなと思って。アートって、内なる自分の声に気づく力がすごく大事で、めっちゃ耳障りいい話だけどなんか違う気がするとか、大きい流れに流されずに自分のアンテナを持っていたいですよね。だからこの感覚を持っている白坂さんは、やっぱりアーティストなんだなって。

白坂:そう言ってもらえると嬉しいですね。

中村:アーティストでも経営者でも、自分の信念があって、変わらずに続けている人がかっこいいですよね。ビッグアーティストになっても、本質が昔と変わらない人。一気に売れて、そのブームが去っても、同じ姿勢で作品を作り続けているような人が本物のアーティスト。人間って環境によって変わっちゃうからね。僕も本当にそうありたいですし、ビジネスも同じかなって思います。目的がお金儲けで、売り抜ければそれで終わりとかじゃなくて、事業を成功させてバイアウトしても、それを元手に、やっぱりまた経営の世界に戻ってきて別の事で社会に対していいアクションを起こし続けてしまう。そういう初志貫徹できる人はかっこいいと思うし、そんなアーティスト的な経営者がこのFGN(Fukuoka Growth Next)や、福岡からたくさん出てくるといいですよね。

塚本:アート振興をするときに、アーティストがアウトプットした作品に触れる機会を増やすことも大事ですが、アーティストの内面にもフォーカスしたいなと思ってます。より本質的なアーティスト的思考をどうインストールしてスタートアップと掛け合わせていくかということは、ここ福岡ならではの文化形成としてとても大事なテーマだと改めて感じました。

中村:アーティストの考え方をビジネスに応用するというのは難しいことですが、要はアーティストがいっぱいいて、その中にはダメな人もいるけど(笑)、ずっと絵を描いてるとか考え方がブレずに取り組んでいる人が身近にいれば、勇気づけられると思うんですよね。それだけでもアーティストが生息している街には意味があると思います。アーティストが根付かない街は優しくないってことです(笑)。さっきのメッシュの話にもあったように、いろんな人間の存在を認めて、最後のメッシュで引っかかる誰か一人のためにも、アートがあり続ける。そしてその一人のためのメッシュがたくさんあり、アーティストがたくさんいれば、それだけたくさんの人を救えるってことです。それが本当の意味で多様性のある社会なんじゃないかなと思います。アーティスト的経営も含め、アートを見たり実践するのは、自分が考えられてなかったことに触れて、それを認めていく訓練です。

白坂:僕は今回、どんな話になるのかイメージできてなかったんですよ(笑)。でも結果的にはヒントばっかりでした。考え方ってアートも経営も事業も、比較的近いところにあるというのがとても感じれたし、自分の答え合わせみたいなこともできて。確かに俺ってそういうことを考えてたなぁとか。あと、軸がブレずにずっとやっていくことの大事さと大変さ。根底にある物事への向き合い方含めて、共通する点を多々見出すことができたのは自分にとっての大きな発見であり収穫でした。

塚本:最後まで名言続きで、私の代わりに弘峰さんにしっかりまとめて頂きました(笑)。今日は本当に良い時間でした。どうもありがとうございました。


【対談後記】
日本では、例えばモネ展のような著名アーティストの展覧会には長蛇の列ができるほど人気ですが、無名のアーティストの絵をじっくり見たり、絵を購入するという文化はできていない気がします。
アーティストが法人と交わることで、アーティストに対するリスペクトが生まれ、文化として定着する街になればいいなと思います。アーティストが根付く街になることで、街の空気感が多様性を受け入れるものになって、優しさで溢れて、またアーティスト的思考・発想の人が増えていくことでビジネス・経済面でもグロースしていく。そんな福岡の未来を期待したいと思います。
改めてこの場をお借りして、白坂さん、弘峰さん、ありがとうございました。お互いにとても視座が高いため共通点・シンクロする部分は多かったと思います。弘峰さんにとっての刺激にもなり、白坂さんにとっては現在地の確認・言語化、そしてちょっと長い目で見た事業化のヒントにもなれば幸いだなと思います。
福岡市ではFukuoka Art Next(FaN)を推進しており、今回の対談はFaNとのパートナーシップに基づく活動の一環で、アーティストの活躍の幅が広がって欲しいという思いで始めたものです。次回はもっと若いアーティストにもフォーカスし、どんなバナナが発見できるかを探りたいと思います。

(電通九州 グロースプランニング部 塚本)

▼関連リンク